奇形児の歌える 九鬼次郎
私が巷を行くと
人々の瞳は急に異様な輝きを帯びてくる
それは私が歩み去った後を
必ず一抹のうそ寒い風が流れるからであろう
奇形の私を人々は
しんしんと闇空を星よりくだって来た
深夜の恐ろしい妖精と見るらしいのだ
よろしい
私は一個の怪奇な妖精ともなろう
奇形 奇形
烙印の中で今はもう蒼冷めている私ではない
私の存在は人々に妙な不安を唆るのであろう
人々のおどおどした神経の慄えを
私は頭のてっぺんに判然と知ることが出来る
ああ 星から下ってきた深夜の異端!
星の子なれば星の子の如く
時には激しい光芒の輪に包まれる私でもあろう
私の歩みゆくところ
人々の胸に一条の業火が突ッと燃えあがる日を
人々が無尽の力に鞭打たれて驚愕に悶絶する日を
―美しい混滅の一瞬よ
その日を私は密かに予期することができる
それゆえ
人々の中で私の目はつめたく見開かれているのだ